
「典型的なうつ症状ですね。今の状態では仕事は難しいですね。しばらくお休みしましょう。」
職場の人間関係、特に上司からのパワハラで疲れ切っていた私に対して医師はこう告げたのです。教職に付き26年目、これまで精神疾患とは無縁だと思っていたので、うつ病と診断されたときはさすがにショックだったのを覚えています。
さらに

「短期間で復帰は難しいと思います。ゆっくり治しましょう。」
とも話されました。その時点で内心

「それは困るなあ。よし絶対に最短で復帰しよう。周囲に迷惑かけてしまうからな。」
そう思っていました。しかし、結論から言うと、復帰まで1年7か月かかってしまったのです。なぜここまで時間がかかってしまったのか。またそのころ何を考えていたのか。そして、今振り返って、復帰に向けて効果があったことが何だったか。こうしたことを自身の経験からお伝えします。
できることを1つだけ決める
休職した当初は、自分でもびっくりするくらいずっと寝ていたと言ってもいいでしょう。体も心もボロボロだったのです。眠くて眠くて仕方がありませんでした。心も体も疲れ切っているときは、まずはゆっくりと休むことが大切です。
体調が悪いこの時期ですが、簡単なことでいいので、ぜひ何かできることを1つだけ決めてほしいのです。今になって思えば、このことが復帰にとても役立ったと思えます。私の場合は、夫婦共働きだったので、朝は妻と一緒に起きると決めました。毎朝6時に起床し、朝食を一緒に食べて7時過ぎに見送るという単純なことを1年半続けました。
もちろん妻が出勤した後は寝ていることが多かったです。ひどい時は見送った後、夕方の6時過ぎまでソファでトイレ以外はずっと寝たまま過ごすこともありました。それでもいいのです。「1つ決めたことはきちんとやる」ことに意味があります。できそうなことを1つ決めて実行することで、自信にも繋がりました。
すぐにできそうな新しいことにチャレンジしてみる
休職後1か月過ぎたころ、気持ちが少しだけ落ち着いてきました。職場のことを考えるとめまいがするような状態は変わりませんでしたが、寝ている時間はかなり少なくなりました。
妻に迷惑をかけているなとずっと感じていたので、これまでほとんどやったことのない家事をやることにしたのです。共働きで洗濯は私がしていましたが、それ以外にできることをもう1つ増やそうと考えたのです。そこでやり始めたのが夕食の準備から片付けまでです。こうすることで、妻の負担が少しでも楽になればという気持ちがありました。
実際やってみると、何とかなるものです。初めの頃こそもたもたして大変だったのですが、10日もすると慣れてきて味は微妙だったかもしれませんが食べられるものができるものです。
家事を増やすことで妻に対する申し訳ない気持ちが少し楽になりました。また、こんな自分でも少しは役に立つことができるという自信回復にも繋がりました。
ただ、ここで大きな落とし穴が待っていました。料理をすることで得た自信を「すぐに復職できる」と勘違いしてしまったのです。
復帰を焦ったために
気分も少し落ち着き、また料理等の家事ができるようになったことで、もう復職しても大丈夫だという気持ちが湧きました。そこで勝手に復職に向けての準備を始めてしまったのです。
具体的には、授業のことを考え教具を作ることや授業の構成をノートに書くなどを始めたのでした。作業を始めると、職場が頭の中に思い浮かんできます。
すると目の前が真っ黒になり、一気に気持ちが落ちてしまいました。
その話を医師にしたときに当然厳しく注意されました。

「気分が良くなったとか、何かができるようになったというのは、所詮自宅内という限られた範囲の中だけのことです。
しかも仕事に関係ない部分でそう感じていることをわかってください。気分が上がっている状態から、落ち込むという浮き沈みはよくありません。回復が大きく遅れていくこともあるのです。」
そのように伝えられ、復職に向けて前に進まない自分にいら立ちを感じつつも、仕事ができる状況とは程遠い今の立ち位置がわかりました。
焦りは絶対に禁物です。
医師の言った通り、ここで落ち込んでしまった気持ちはなかなか戻ってこなかったのです。
停滞からの転機
休職して3か月が過ぎました。家庭内では家事を続け、落ち着いて生活ができていましたが、仕事のことを考える自信は上記でお伝えしたこと以降は全くできなくなりました。
そしてこのころ「本当に自分は休職したころと比べて回復しているのだろうか」という疑問が湧いてくるようになったのです。
正直に話すと、医師の話し方や態度がやや高圧的だと感じていたのです。
もちろん医師にそのつもりはなかったはずです。しかし相性の問題なのか、医師の話し方からパワハラの上司を連想することが多く、病院に行くことに怖さを感じるようになったのです。
それを敏感に感じていたのが妻でした。
妻は、

「普段は穏やかな表情になっているのに、受診の前日から表情が曇ることが気になっている。受診の朝は最悪で、見ていて心配になる。これっておかしくない?」
そう話して病院への不信感をあらわにしていました。

「今の自分の症状を客観的に診てもらいたい。回復しているかどうか知りたい。」
そう考えた私は、セカンドオピニオンとして、別の心療内科を受診することにしました。今思えば、ここが復職に向けての大きな転機となったことは間違いありません。
自分に合う医師と出会う
結論からお話ししますと、この医師に出会って1年で症状が劇的に変わっていきました。
自分で回復していると実感することができたことがとても大きかったのです。自分に合う医師と出会うこと、信頼でき、さらけ出せる医師と出会うことは重要です。

「まだしばらくかかるなあ。うつ症状がまだ出ているからなあ。新年度の4月復帰はすすめないよ。慌てなくていいと思うよ。」
セカンドオピニオンをお願いした医師はそう私に話しました。うつ症状がまだ出ていて、復帰はまだ早いと伝えられたことで、正直ホッとしたのです。復職したい気持ちはもちろん強かったのですが、反面、毎日勤務を続けられる自信が全くありませんでした。
この時の診察で、私が以前の医師とは違い、楽な気持ちでゆったりとして話ができたことをよく覚えています。
この病気の場合は、医師に対して楽になれるとか、安心できるということがとても大事です。その信頼関係が築けないと回復につながりません。
私はここで主治医をこの医師にお願いすることにして、治療を続けることを決めました。この医師の言葉が後に私を救ってくれたのです。
オンライン英会話
休職から7か月、病院を変えて3か月が過ぎたころ、日常生活はかなり落ち着きを取り戻し、めまいや急な落ち込みといったこの病気特有の症状はかなり少なくなりました。
医師からは

「好きなことしていいよ。旅行も行きたかったら行けばいいよ。」
とは言われましたが、やはり休職の身ですし、そうはいきません、ましてや収入面の問題もありましたし、人の目も気になりました。とてもそういう気分にはならなかったのです。
またうつ病からの回復を実感できている反面、休職期間が長くなることで復職したときにきちんと働けるのかという不安も持っていました。迷惑かけた分、すぐにでも役に立ちたいし、子供にも何か伝えたいという思いがあるのですが、本当にやれるのか、役に立てるのか等の不安がとても大きかったのも正直な気持ちでした。
ちょうどこのころ、小学校に英語が導入されることが目前に迫っていました。
私は英語が大の苦手でしたので、果たして子供に教えられるかどうか心配だったのです。そこで休職期間を利用して新たに英語を勉強しようと決めたのです。今の時代はオンラインで自宅にいて英会話の勉強ができます。これなら今の自分でもできそうだと判断しスタートしました。
英会話の先生は、私がうつ病で休職していることは知りません。もちろん伝える必要もありません。そして私は休職してからは家族と医師としか話をしていません。ですから、
- スキルが学べる。
- 込み入った話をする必要がない。
- 人と話す機会ができる。
- 低料金で自宅にいてできる。
- 1日25分、毎日受講できる。
こうした点は、当時の私にいろんな意味でメリットがあり、回復にはとても大きなものでした。レッスンを毎日やることで生活リズムもできましたし、会話ができるようになるとだんだん自信もついてきました。英語に限らず、「オンラインの個別レッスンで何かを学ぶ」ことは、うつ病の回復に役立つと実感しましたのでおすすめしたいです。
結局、職場復帰までの約1年間、英語のレッスンは受け続けました。これが復帰後に役立ちましたし、さらにその先の夢へと繋がっていったのです。
ペットの癒し効果
月に2度の病院受診を続け、家事と英語は継続していくことで、私も回復しているという実感がさらに持てるようになりました。
休職して1年3か月、11月に入ったころから医師と相談し

「来年4月からの復帰を目指しましょう。そのために年明けの1月からリハビリ出勤を開始する方向で考えていきましょう。」
と目標をたてました。職場にも連絡をいれ、いよいよ復職に向けての準備をスタートさせたのでした。
11月の半ばに、妻から

「ねえねえ、ペットを飼ってみない?復帰に向けてのステップとして、動物の世話をすることや、かわいがることってプラスになると思うのだけど。」
と提案されたのです。
私は、ちょっと自信が持てず、前向きな返事をしなかったのですが、ある日妻が、

「ペットを見に行くだけでも行ってみようよ。」
と言い出したので、渋々ペットショップへ足を運びました。
ペットショップで実際に動物を抱っこしてみると、やはりかわいいなと思いました。人間に甘えてくる様子にとても癒されたのです。心が軽くなり、思わずこちらも笑ってしまっていたのですから。もう迷いはなく、その日に子犬が新しい家族になりました。
「自分がしっかり世話をしなければならない」とか、「犬の為に毎日散歩に連れて行かないと」という責任を持って生活することは、回復に向けて効果的でした。またペットが飼い主に与える癒し効果はとてもすごいものがあります。私にとっては、大きな力となったことは間違いありません。
復職後
休職して1年5か月後の1月から、リハビリ出勤を3か月行いました。この間、出勤日は1日も休むことなくメニューをこなすことができたので、新年度スタートの4月から本格的に復職し、学級担任として1年間休むことなく仕事ができました。長いブランクがあったことで不安もありましたが、医師から

「先を考えずに1日1日を乗り越えましょう。それが2日、1週間、1か月となればそれでいいじゃないですか。」
と助言されていました。それを続けることで何とか1年乗り越えられました。そしてこの年で早期退職し、今はネットを使って別の仕事を立ち上げ、次のステップへ進み始めています。
最後に、私なりにうつ病から復帰に大切なことをまとめてみました。
- 休職直後は無理をせず、ゆっくり休むとともに生活習慣を崩さないための簡単な目標を1つだけ決めましょう。
- 生活のリズムを崩さないように、例えば家事をする等、何かに取り組みましょう。
- 主治医が合わないと感じたなら、セカンドオピニオンを求めること。信頼できる医師は必要です。
- 体調が戻ってきた段階で、オンラインを使って何か個別でできる勉強をしてみること。復帰ができなくなったらどうしようかという不安の解消にも繋がり、自信も持てる。
- 復帰できなくても何とかなるという気持ちを持つこと。実際に何とかなります。
何か参考になることが1つでもあれば幸いです。
コメント